1980年代、日本では「マイコンブーム」が巻き起こりました。NECのPC-8801シリーズやPC-6001シリーズ、富士通FM-7、シャープX1、MSXなど、個性豊かな8ビットパソコンが次々と登場し、多くの少年たちがコンピューターの世界に夢中になりました。そんな昭和のパソコン少年たちにとって、特別な存在だった雑誌があります。それが「マイコンBASICマガジン」、通称「ベーマガ」です。
ベーマガは単なるパソコン情報誌ではありませんでした。掲載されたゲームのプログラムを自分のパソコンへ入力して遊ぶ。BASICを覚える。そして完成したプログラムを自分なりに改造してみる。昭和のパソコン少年にとって、ベーマガはコンピューターの世界を知るための「教科書」であると同時に、最高の遊び道具でもありました。
今回は、そんなマイコンBASICマガジンの思い出とともに、DELUXEやプログラム大全集の魅力についても振り返ってみたいと思います。
マイコンBASICマガジンとは?
マイコンBASICマガジンの大きな特徴といえば、読者が実際に入力して楽しめるプログラムが数多く掲載されていたことです。現在ならゲームやアプリはインターネットから簡単にダウンロードできます。しかし、昭和のマイコン時代は違いました。市販ゲームを購入する以外にも、雑誌に掲載されたプログラムを自分で入力してゲームを楽しむという文化がありました。
ベーマガを買って家に帰る。ページをめくりながら面白そうなプログラムを探す。そしてパソコンの前に座り、プログラムリストを見ながら一文字ずつ入力していく。入力が終わったら、期待を込めてRUN。ところが、エラー。プログラムリストと画面を何度も見比べながら、入力を間違えた場所を探します。そして修正して、ようやくゲームが動く。あの瞬間の嬉しさは格別でした。
ゲームで遊びたい一心でやっていたことですが、今振り返れば、自然とBASICの仕組みやデバッグの基本を学んでいたのだと思います。
ベーマガを片手にプログラムを入力した時代
現在のパソコンやスマートフォンは、完成されたソフトウェアを「使う」ことが中心です。しかし当時は、自分で命令を入力してコンピューターを「動かす」という感覚が、もっと身近にありました。
ベーマガをパソコンの横に置き、掲載されたBASICプログラムを入力する。正常に動けば、それだけで嬉しい。さらに慣れてくると、「この数字を変えたらどうなるんだろう?」「キャラクターをもっと速くしてみよう」「色を変えたら面白いかもしれない」と、自分なりにプログラムを改造するようになります。入力する。動かしてみる。失敗する。原因を探す。修正する。そして、また動かしてみる。こうした試行錯誤そのものが、昭和のパソコン少年にとって最高の遊びでした。
今のようなプログラミング学習サイトも、解説動画も、生成AIもありません。それでもベーマガという一冊の雑誌があれば、プログラムを入力しながらコンピューターについて学ぶことができました。
ベーマガは「読む雑誌」であると同時に、実際にパソコンを動かしながら楽しむ雑誌でもあったのです。
マイコンBASICマガジン DELUXEという特別な存在
通常のベーマガとは別に、昭和のパソコン少年を楽しませてくれたのが「マイコンBASICマガジン DELUXE」です。DELUXEには通常のベーマガとはまた違った特別感がありました。
本屋で見つければ、つい手に取りたくなる。ページを開けば、たくさんのプログラムやパソコンに関する情報が待っている。「次はこれを入力してみよう」「こんなゲームも作れるのか」と、ページをめくっているだけでも想像が膨らみました。
インターネットで好きなだけ情報を検索できる現在とは違い、一冊の本に詰め込まれた情報には大きな価値がありました。そして「DELUXE」という名前の響きにも、どこか豪華で特別なものを感じたものです。
通常のベーマガとは少し違う存在だからこそ、DELUXEにはDELUXEならではのワクワク感がありました。
プログラム大全集はまさに「宝箱」だった
そして、ベーマガを語るうえでもう一つ忘れられないのが「プログラム大全集」です。「大全集」という名前からして、当時のパソコン少年には魅力的でした。たくさんのプログラムが収録された一冊は、まさに宝箱のような存在です。
ページをめくりながら、「今日はどれを入力しようかな」と考える。実際には、掲載されているすべてのプログラムを入力するわけではありません。画面写真やプログラムリストを眺めているだけでも十分に楽しめました。「このゲームは面白そうだ」「こんなものまでBASICで作れるんだ」「自分のパソコンでも動かしてみたい」ページをめくるたびに、そんな発見がありました。ゲームを手に入れるためにプログラムを入力する。今では考えにくいほど手間のかかる方法です。しかし、その手間そのものが楽しかったのです。
ベーマガ本誌、DELUXE、そしてプログラム大全集。それぞれに少しずつ違った魅力があり、昭和のマイコン文化を楽しむうえで大切な存在でした。
市販ゲームだけではなかった昭和のパソコン遊び
昭和のパソコンというと、PC-8801などで発売された名作ゲームを思い浮かべる人も多いでしょう。もちろん、市販ゲームも大きな楽しみでした。しかし、それだけがパソコンの楽しみではありませんでした。BASICで簡単なプログラムを作ったり、雑誌のプログラムを入力したり、それを自分なりに改造したりする。これも立派な「パソコン遊び」でした。
むしろ、自分で何かを入力しなければ始まらないところに、当時のパソコンらしさがあったように思います。たった数行のプログラムでも、自分が入力した命令によって画面上のキャラクターが動けば嬉しい。音が鳴れば嬉しい。色が変われば嬉しい。
現在の高性能なゲームと比べれば非常に単純なものですが、そこには自分でコンピューターを動かしたという感動がありました。ベーマガは、そんな楽しさを毎月届けてくれる存在だったのです。
ベーマガは記事だけでなく広告まで面白い
ベーマガの魅力は、掲載されたプログラムだけではありません。現在になって改めて昔のベーマガを読み返してみると、当時の広告まで面白いことに気付きます。パソコン本体。周辺機器。ゲームソフト。パソコンショップ。パソコン関連書籍。誌面には、当時のパソコン文化を象徴するような広告がたくさん掲載されています。昭和当時は何気なく読み飛ばしていた広告でも、今見ると興味深いものばかりです。
「こんなパソコンがこの価格だったのか」「このゲーム、懐かしいな」「こんな周辺機器もあったな」と、広告を眺めているだけでも楽しめます。
記事だけではなく広告まで含めて、その時代の空気が一冊の雑誌の中に残っている。これも古いパソコン雑誌を今読む面白さです。
今でも所有しているベーマガ、そして古紙の香り
現在でも、私はベーマガを数冊所有しています。時々本棚から取り出してページをめくることがあります。そこで感じるのが、何十年という時間を経た古紙の香りです。これがなんとも言えません。私にとって、それは単なる「古い本の匂い」ではありません。ページを開いて古紙の香りを感じると、昭和のパソコン少年だった頃の空気まで自然と思い出します。パソコンの横にベーマガを置いて、プログラムを入力していたこと。入力ミスを見つけるため、何度もプログラムリストを確認したこと。ようやくゲームが動いて喜んだこと。新しいパソコンやゲームの記事を何度も読み返したこと。紙の手触り。誌面の色。そして古紙の香り。こればかりは、デジタル化された資料では完全には味わえないものです。情報を読むだけならデジタルでもできます。しかし、実物の雑誌には「物として残ってきた時間」があります。それもまた、紙のベーマガを読む魅力の一つだと思います。
ベーマガが教えてくれた「自分で作る楽しさ」
令和の現在はAIの時代です。プログラムについて分からないことがあればAIに質問できますし、コードそのものをAIに作ってもらうことさえ可能になりました。昭和のパソコン少年からすれば、まさに夢のような環境です。それでも昔のベーマガを読み返していると、コンピューターを楽しむための本質は、それほど変わっていないようにも思います。
自分で試してみる。失敗する。原因を考える。修正して、もう一度動かす。そして、自分なりの工夫を加えてみる。ベーマガが教えてくれたのは、単なるBASICの命令だけではありません。
コンピューターを自分の手で動かす面白さ、そして自分で何かを作る楽しさだったのだと思います。便利なAIが登場した令和だからこそ、昭和のベーマガが教えてくれた「まず自分で試してみる」という感覚は、改めて大切にしたいものです。
まとめ:ベーマガは昭和パソコン文化を伝えるタイムカプセル
マイコンBASICマガジンは、昭和のパソコン少年にとって単なるパソコン雑誌ではありませんでした。プログラミングを学ぶ教科書であり、ゲームを楽しむための情報源であり、新しいパソコンの世界を知るための入口でもありました。そして通常のベーマガだけではありません。
マイコンBASICマガジン DELUXEやプログラム大全集にも、それぞれ違った魅力がありました。
ページをめくり、面白そうなプログラムを探す。パソコンの前に座って、一文字ずつ入力する。エラーが出れば原因を探す。そして、ようやく動いたときに喜ぶ。そんな体験そのものが、昭和のパソコン文化だったのだと思います。そして現在、昔のベーマガを開けば、プログラムや記事だけでなく、当時の広告や誌面デザインまで楽しめます。さらに、ページから漂ってくる古紙の香りまでが、昭和という時代を思い出させてくれます。40年近く前のパソコン雑誌なのに、今読んでも面白い。いや、長い年月が経過したからこそ、新しく見えてくる魅力もあります。
マイコンBASICマガジンは、昭和のパソコン文化をそのまま閉じ込めたタイムカプセル。令和の今だからこそ、もう一度じっくりページをめくって楽しみたい雑誌なのです。